遺伝性乳がん卵巣がん診療の保険適応について Part2
今回は、以前に「Part1」として書いたものの続きになります。
今回の記事は、
先日の1月31日に開かれた中医協の資料のうち、
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の診療に関する箇所に関するまとめです。
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000590739.pdf
いやー・・・、Part1の記事で、
もし今回の件でHBOC疑いのBRCA遺伝子検査が保険適応になるなら、
検査前の遺伝カウンセリングも適応なるはず、と個人的には予想しています。
と書いていたのですが、
私の予想はハズレでしたね。かなり予想外でした。
この中医協の資料の内容はまだ暫定で、
これから答申→公聴会と続いていきますので、
下記のメモはあくまで「もしこの資料の内容がそのまま適用されたら」としての話になります。
早とちりの側面もあると思いますのでご容赦ください。
保険償還される項目
1、BRCA遺伝子検査
- 項目が新設されBRACAnalysis(20,200点)と統合される。
- 対象は、HBOC疑いの乳がん・卵巣(または卵管)がん患者さん+リムパーザ適応ありの乳がん・卵巣(または卵管)がん患者さん
- 点数は未定。
- 施設基準が新設され「BRCA1・2検査を行う施設」として厚生局に届出が必要。
- 遺伝カウンセリング加算の届出を行っている施設 or そのような施設と連携していれば算定可。
- 遺伝専門医の在籍は要件になし。
2、BRCA遺伝子検査の前の「がん患者指導管理」
- 従来のBRCA検査前の「遺伝カウンセリング」は「がん患者指導管理 二」となる。
- 「がん患者指導管理 二」は新設の項目であり、点数は未定。
- 医師が患者さんに文書で説明を行う必要あり。
- プライバシーに配慮した個室で行う必要あり。
3、BRCA遺伝子検査後の「遺伝カウンセリング」
- 1でBRCA遺伝子検査が保険適応になるため、その結果に関する遺伝カウンセリングも保険適応となる。
- 新たにMSI検査(Lynch症候群の補助診断目的のみ)の結果に関する遺伝カウンセリングも保険適応となる。
- 点数は従来の1,000点から変更になる可能性あり。
- 遺伝カウンセリング加算の届出を行っている施設であれば算定可。
4、リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)、リスク低減卵巣卵管切除術(RRM)
- 「遺伝性乳がん卵巣がん症候群に係る手術」とう項目が新設される。
- RRSOはK888(子宮附属器腫瘍切除術)として、RRMはK475(乳房切除術)として、その適応にそれぞれ「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者」が加えられる。
- がんを発症していない人は対象とならない。
- RRMに伴う乳房再建も保険で認められる。
- RRMの点数は従来の「乳房切除術」の点数から変更になる可能性あり。
- RRSOの点数は資料からは読み取れず。
- 手術の前に、遺伝専門医+(乳腺外科医 or 婦人科医)で遺伝カウンセリングの結果を踏まえたカンファレンスを行うこと。
- 遺伝専門医、乳腺外科医 、婦人科医はHBOCの講習を受けていることが必要。
- 病理医、麻酔科医の在籍が必須。
- 乳房MRI検査加算の届出を行っている施設。
- 遺伝カウンセリング加算の届出を行っている施設。
5、乳房MRI検査
改定のポイント
- HBOC診療は従来の「遺伝が関わる特別な診療」から「一般外来での診療」へ変わる。→今後、乳腺外科、婦人科の医師、看護師の方々にとって遺伝の知識はマストになってくる。→同時に遺伝専門職は、BRCA検査前よりも、HBOCと診断された方や、その血縁の方への遺伝カウンセリングの役割が求められていく。
- おそらく国内で初めて「予防目的の手術」が保険診療として認めれた。ゲノム情報を用いた「個別化治療」とともに、「個別化予防」も未来の医療に取り入れられていくことと予想される。
医療現場で求められる対応
- 「BRCA1・2検査を行う施設」として厚生局に届出る。(まだ様式すら発表されてませんが)
- BRCA遺伝子検査の前の「がん患者指導管理」を行う個室を準備する。
- BRCA遺伝子検査の前の「がん患者指導管理」に必要な文書フォーマットを作成する。
- BRCA検査後の遺伝カウンセリングも保険適応で行いたい場合は、遺伝カウンセリング加算施設の届出をする。
- RRSOやRRMを行う場合は、主治医と遺伝専門医のカンファを開催する。HBOCの講習を受講済みか改めて確認する。
患者さんにとってのメリット
- HBOCが疑われる患者さんがBRCA遺伝子検査を受けられる病院が増える。
- HBOCにかかる診療がほぼ全て保険診療で受けられる。よって、費用負担は小さくなり、遺伝子検査や遺伝カウンセリングを他の診療と同日に受けられるようになる。
- HBOCとわかった後の、乳房MRI検査は近くの病院で保険診療として受けられる。(遺伝専門医などの在籍や遺伝カウンセリング加算施設が要件ではないではないため)
個人的な感想
検査前の遺伝カウンセリングはついに「がん患者指導管理」に置き換わりましたね。
名称の印象が大きく違いますので、遺伝カウンセラーの立場からすると「指導」か・・・と残念な気持ちがありますが、
これもHBOC診療が「普通の診療」になっていくためのプロセス!と思えば良い流れだと思います。
診療報酬改定の文書には明記されていませんが、
HBOCの遺伝カウンセリング記録や遺伝子検査の結果は、これからは他の医療情報と同じ扱いになっていくと思います。
これらを機密情報として管理している場合は、軌道修正していく必要があるでしょう。
かといって、遺伝情報の差別を禁止する法律はまだありませんので、遺伝情報の取り扱いの周知は同時に進めていかないといけませんね。
あと、RRSOを行わない場合の卵巣がんサーベイランスは保険適応にはなりませんでした。はやり早期発見や生存率延長のエビデンスがないからでしょうか・・・。
私の勤務先では、「経膣超音波検査+腫瘍マーカー測定」は自費診療で14,000円です。これを半年ごとに払うとなると結構かかります。
(ちなみに自費の乳房MRI検査が約4万円ですので、それが保険適応になっただけだいぶ良いとも言えますが^^;)
となると、おそらくRRSOを選択する患者さんが増えていくでしょうから、RRSO後の生活の実際についてもっとデータを集積していく必要があると思います。
ちなみに遺伝性乳がん卵巣がん当事者会のクラヴィスアルクスさんのwebsiteで、
こんなアンケートが行われています。
京都大学の遺伝カウンセラーコースの学生の方による研究で、
RRSO後の性生活の変化についてのアンケートだそうです。
このような研究がもっと増えていくといいですね。
それではまた、この件に関する追加情報が公開されたらブログにアップしたいと思います。
今日も読んでいただきありがとうございました。
井令 咲絵(いれさき)