遺伝性乳がん診療に携わる遺伝カウンセラーへ
これまで乳癌診療ガイドラインで、
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)診断目的のBRCA遺伝子検査の前には遺伝カウンセリングが必要とされていましたが、
4月の診療報酬改定以降は、外来担当医からの文書による説明でOKということになりそうです。
BRCA遺伝子検査を必要としている患者さんに広く提供できる体制になるのは素晴らしいと思いますが、
実際は医師がこの「説明」にどれくらいの労力をかけられるか気になります。
遺伝カウンセラーが在籍しているような、ある程度の規模の病院であれば、
乳腺外来はかなり忙しい状態だと思います。
今まで遺伝カウンセリング外来にお願いできていたことが外来担当医の仕事として増えていくと、
現場の医師としては「これ以上外来の仕事を増やさないで・・・」と思うのが正直なところではないでしょうか。
遺伝カウンセラーの立場としても、
せっかく任せてもらえる遺伝カウンセラーがいるのに制度改定により活用されにくくなり、たださえパンク状態の外来の医師の仕事が増えていくことは、
なんだか残念な状態だなと思うのです。
先週、乳腺外来の看護師の方とこの件について話をする機会がありました。
「もし外来のBRCA遺伝子検査の説明だけでOKになったら、患者さんはみんな検査を受けると思います。
多くの患者さんは先生から提案された検査は“受けた方がよい検査”と思ってしまうんです。
遺伝カウンセリングは違う立場の専門家と相談してもらえることで、
患者さんが一度立ち止まって考える機会になっています。
それがあるから私たちも安心してHBOC診療を進めていくことができましたが、
看護師の目線からみて“この人大丈夫かな?”と思う人も遺伝子検査をぱっと受けるようになると、
それでいいのかな?という思いもあります」
というお話でした。
今後、一般外来でBRCA遺伝子検査を進めていくのに注意すべき点だなと気づかされました。
現状、遺伝カウンセラーは国家資格ではありませんので、診療報酬を算定できないのは仕方ありません。
でも遺伝カウンセラーは遺伝性乳癌の遺伝カウンセリングを担当できるトレーニングを受けています。
・この方の心配事は遺伝子検査で解決に近くだろうか?
・どの遺伝子検査が適切なのか?
・この方や家族にも最大限のメリットを受けていただけるように、どう方針を立てればよいか?
遺伝カウンセラーは患者さんとともに事前に確認することができます。
実際に検査前の遺伝カウンセリングを遺伝カウンセラーが担当している病院は少しずつ増えています。
費用の問題はありますが、
外来での説明に使ってもらうHBOCの資料を用意する、
個別の患者さんごとに遺伝カウンセラーが説明補助につく、
遺伝カウンセラーが患者さん向けの説明会を開くなど、
どういう形であれどうか専門性を活かしてほしいと思います。
「遺伝カウンセラーは足りないから、いなくてもいいような制度にしよう」
という考えは、遺伝医療の普及を目指す立場から見ればその通りですが、
その声に「そうですね」と私たちが言っていては、
いつになっても遺伝カウンセラーを活用してもらえる制度にはなりません。
制度はなくても、患者さんのためにできることを見つけて、
現場の医療スタッフの役に立っていきましょう。
以上、私の偏った目線による意見でしたが、
それぞれの病院で、HBOC診療にかかわってきた医師、看護師、遺伝カウンセラー、可能であれば患者さんも含めて話し合い、
ベストな方針を決められると良いなと思います。
今後の学会や社会でどのような反響があるか、アンテナを張っていきたいと思います。
今日も読んでいただきありがとうございました。
井令 咲絵(いれさき)