リンチ症候群のMSI検査後の遺伝カウンセリングも保険適応へ
前回の記事では、
次回の診療報酬改定で、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の診療が保険診療になる件について書きました。
数ある追加項目の中にチラッと、
新たにMSI検査(Lynch症候群の補助診断目的のみ)の結果に関する遺伝カウンセリングも保険適応となる。
と書きました。
遺伝性乳がんの話なのに、
急に「リンチ症候群」「MSI検査」の文言が出てきて、
いったんスルーしていたのですが、
よく考えるとこれはこれで結構大きな進展だと思います。
リンチ症候群とは、遺伝性大腸がんの中で最も多い疾患です。
大腸がん全体の3〜5%を占め、頻度は一般の約400人に1人のと言われています。
生まれ持った特定の遺伝子の変化により、
大腸がん、胃がん、子宮体がん、卵巣がん等のリスクが一般より高くなります。
これらのがんを若くして発症したり、家族に多い場合に疑われます。
詳しくはこちら↓
MSI検査とは、
リンチ症候群の絞り込みに行われる検査で、ざっくり言うと、
がんの組織で特徴的な遺伝子の変化(MSI:マイクロサテライト不安定性)が起きていないかを調べる検査です。
これで陽性であればリンチ症候群の疑いが強くなり、
確定診断としての遺伝学的検査が検討されます。
リンチ症候群が疑われる大腸がん患者さんへのMSI検査は保険適応にもなっていて、
「悪性腫瘍遺伝子検査」の1つとして2000点を算定できます。
有名な、肺がんのEGFRやK-ras遺伝子検査と同じ項目なんですが、
消化器系のドクターの間ではほとんど知られていません。
(私の印象では、ですが^^;)
たしかに、MSI検査でひっかかったからといって、
肺がんのEGFR遺伝子検査のように「陽性の場合によく効く薬」があるわけでもなかったので、
今まで浸透してこなかった理由も分かる気がします。
しかし、
昨年度、MSI検査で陽性の場合に使える、臓器横断的な治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)が市場に出たことで、
ついにMSI検査も「よく効く薬」につながる検査となったわけです。
(注:免疫チェックポイント阻害剤が使えるかを見分けるためのMSI検査を受けるには様々な条件があります)
このように、MSI検査には
「リンチ症候群かどうかを予測する」
「免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいかを予測する」
という2つの役割があります。
そして今回の診療報酬改定で、
「リンチ症候群かどうかを予測する」ためにMSI検査を行った場合、
その結果についての遺伝カウンセリングが保険適応になる、との方針が示されました。
私の勤務先では、
手術治療を受けられる大腸がん患者さんに、がんの家族歴を遺伝カウンセラーが聞き取りをしていて、
リンチ症候群が疑われる方には主治医よりMSI検査を案内してもらっています。
現在はMSI陽性となった方への遺伝カウンセリングは自費診療で受けていただいているのですが、
これが保険診療となるとハードルはだいぶ下がると思います。
MSI陽性が意味する内容、遺伝学的検査のメリットとデメリットについて丁寧にお伝えできるチャンスが増えるわけです。
すでに私の頭の中では「毎週の消化器カンファで”この方へMSI検査の案内お願いします”」と言いやすくなるなぁと想像が膨らんでいます。(^^)
願わくば、日本中の消化器外科・消化器内科での「リンチ症候群のスクリーニングのためのMSI検査」の知名度が上がるといいなと思います。
今回の遺伝性乳がんの飛躍をきっかけに、
遺伝性大腸がん(リンチ症候群)の方も一歩、保険診療へ進んだということでしょうか。
この勢いで、リンチ症候群の遺伝学的検査と、サーベイランスのための大腸内視鏡検査の保険適応が叶ったら良いなと思います。
その日まで、今できる家族歴の聞き取りと遺伝カウンセリングを地道に続けていきたいと思います。
今日も読んでいただきありがとうございました。
井令 咲絵(いれさき)