理学部生、遺伝カウンセラーになる

"遺伝"と触れ合いながら生きていく、試行錯誤の記録。twitter @sakie_irayで最新情報を発信中。

【文献】遺伝カウンセリングのスタイルはどう変わったか(米国での2010と2017の比較)

GW真っ只中ですね。家で映画を観たり本を読んだり、意外に楽しんでいます、いれさきです。

読んだ本・映画で遺伝カウンセリングに関する作品については、twitterに簡単に感想を書いています。

 

さてさて、おもしろそうな論文がJournal of Genetic Counselingで出ていたので、まとめてみました。

 

論文タイトル

アメリカでの遺伝カウンセリングのスタイルの変化:2010年と2017年の比較

 

日本での遺伝カウンセリングは、病院に相談者さんが来て話をするのが一般的ですが、
他にどんなスタイルの遺伝カウンセリングがあるのでしょうか?

遠隔医療のイラスト(女性医師)

  • 今はCOVID-19の影響で、従来の「対面の遺伝カウンセリング」は延期になってしまっています。
  • 収束の見通しは立たない中、対面以外の方法で面談するとなると、各方法の特徴を知っておく必要がありそうです。
  • 今回は、遠隔の遺伝カウンセリングが発達しているアメリカの状況からヒントを得たいと思います。


この研究を1分で紹介

近年の遺伝カウンセリングのスタイルの変化を調べるために、アメリカ遺伝カウンセラー協会(NSGC)会員へwebアンケートを行い、2010年と2017年の結果を比較したところ、

  • 【対面】は有意に減り、【グループ形式】も少し減っていた。
  • 一方、【遠隔ビデオ】は有意に増え、【電話】も少し増えていた。
  • 2010年以降、3つか4つの方法を行っている遺伝カウンセラーが増えている。
  • 確かに多くの遺伝カウンセラーが他の遺伝カウンセリングのスタイルに関心をもっていたが、やり方が分からず導入が難しいと考えていた。
  • 患者が遠距離でアクセスできなかったり、予約日までの期間が長い問題を解決するには遠隔診療が必要。
  • 今後もこのような取り組みを推進するために、遺伝カウンセラーにノウハウを提供する体制が求められる。

この研究を詳しく紹介

Genetic Counseling Service Delivery Models in the United States: Assessment of changes in use from 2010 to 2017

Accepted: 22 February 2020
J Genet Couns. 2020;00:1–16.

背景

  • NSGCでは2009年より、遺伝カウンセリングへのアクセス改善を目的としたグループを作り調査研究を行なっている。

 

  • 対面の遺伝カウンセリングだけでは、距離の問題や、予約が取りづらい問題が生じ、質を落とさないで行う方法が模索されている。

 

  • 一般的に、医療サービスへのアクセスしやすさの評価としては【物理的に受診できるか】【費用面などの負担が小さいか】【公平性はあるか】【臨床的な有用性はどれくらいか】といった指標が用いられるが、遺伝カウンセリングのアクセスの評価基準は定まってはいない。

 

  • 今回は2010年と2017年に同様に行われた、遺伝カウンセリングのスタイルの実態について比較検討を行った。

 

方法

  • 2017年にNSGC協会員3616名にwebアンケートを行った。質問内容は2010年のアンケートとほぼ同じ51項目を用い、2010年と2017年の結果を比較検討した。

 

  • 面談のスタイルは【対面式】、【電話】、【グループ式】、【遠隔ビデオ】の4つで調査した。

 

  • スタイルごとの実施頻度は【常に】、【頻繁に】、【時々】、【まれに】、【全くなし】の5段階スケールで尋ね、解析時には【常に】と【頻繁に】→【実施群】、それ以外→【非実施群】の二値変数にして検定した。(有意水準=0.05)
  • 遺伝カウンセリングの領域は【がん】、【循環器】、【遺伝一般】、【出生前】【小児】、【多領域】、【その他】に分けた。

 

  • 面談のスタイルごとの特徴を把握するために 【1.予約まで何週間待ちか?】、【2.患者が来院までにかかる時間は?】、【3.1週間に受け入れ可能な新規患者数は?】、【4.遺伝カウンセリングにかかった時間は?】、【5.予約の律速段階は?】、【6.何のサービスに対して費用を請求したか?】、【7.保険適用するためにどの医事コードを使ったか?】、【8.患者の来談経緯は?】の質問を用いた。

 

結果

  • 590名の回答(回答率16%)があり、517名の回答を解析対象とした。

 

  • 【対面式】の2017年の割合は92%で、2010年と比較して有意に減少していた。例えば【常に対面式】の割合は65%から58%に減少していた。予約日までの日数は有意に増えていた。最も日数が長い領域は、小児と遺伝一般で、約2ヶ月待ちであり、これは2010年と変わっていなかった。

 

  • 【電話】の2017年の割合は13%で、2010年と比べて増加傾向にあった。他の方法に比較して最も予約がとりやすい方法(1週間以内)であるが、7年前に比べると予約が混んでいる傾向が見られた。面談時間が30分未満の短いケースが増えていると同時に、60分以上のケースも増えており、初回面談も電話で行なう機会が増えていると分かった。

 

  • 【グループ】の2017年の割合は1%で、2010年と比べて減少傾向にあった。グループ面談のあとに、30分程度の個人との面談を設けるケースは58%あったが、個人面談を全く行わないケースも26%あった。また、保険が適用されない場合が多かった。

 

  • 【遠隔ビデオ】の2017年の割合は7%で、2010年と比較して有意に増加していた。予約の待ち時間も2週間以内が半数であった。他の方法と比較して、遠方の患者(来院まで2時間以上)の割合が最も多く、7年前と比較して近距離の患者との面談数も増加していた。

 

考察

  • 7年前と変わらなかった点・・・遺伝カウンセラー達は各自が複数のスタイルで面談しているにも関わらず、1週間に受け入れ可能な新規患者数は増えておらず、遺伝カウンセリングにかかる時間も減っていなかった。予約日までの期間は短くなっていないことから、効率をあげる工夫がさらに求められる。

 

  • 7年前と特に違った点①・・・どのスタイルにおいても、予約の律速段階で最も多いのが【遺伝カウンセラーの予定】だった。これは遺伝カウンセラーの需要に対し人数が足りていないことを示唆している。小児領域では【医師の予定】が最も多かった。

 

  • 7年前と特に違った点②・・・使用した医事コードを見ると、以前は医師の名前でオーダーしていたが、遺伝カウンセラーが自分の名前で「遺伝カウンセラーによる面談」で医療保険での支払いをオーダーしている数が増えていた。遺伝カウンセラーに免許を認める州が増えているからだろう。これにより、医師の予定が合わなくても面談ができるようになり、高まる遺伝カウンセリングの需要に応えることが可能になっていると考えられる。

 

  • 電話や遠隔ビデオでの面談では、遠方の患者だけでなく、近くの患者の数も増えていた。テクノロジーの発達に伴って、患者希望で遠隔を用いる機会が増えていると予想される。また、電話や遠隔ビデオを用いる遺伝カウンセラーは皆、対面式の面談も行っていたので、おそらく、患者の状況に応じて使い分けができるようにしているのだろう。

 

  • アンケートにあったコメントからは、電話での面談は結果説明やフォローアップに用いられることが多いことが分かった。初回の面談は対面式で行い、それ以降は電話で行うスタイルも依然として多いようである。実際、電話での面談は30分以下と、他のスタイルと比較して最も短時間だった。

 

提案

  • 今回の調査では各面談スタイルの大きな変化は認めなかった。

 

  • 今回新たに分かった課題として、遺伝カウンセラーが何のために新しい面談方法を模索するのかをはっきりさせる必要がある単位時間に対応できる患者数を増やすため?それとも、これまで遺伝カウンセリングが受けられなかった層(物理的or経済的)へサービスを届けるため?はたまた、1人の患者にかけれる面談時間を長くするため?

 

  • このような目的は各施設によって異なるため、「これが良い」という面談スタイルはない。むしろ、各自が目的にあったスタイルを選択できるようになるのがよいのだろう。

 

限界

サンプル数が少ない、特に電話遺伝カウンセリング会社に勤める遺伝カウンセラーのサンプル数が、本来いるはずの人数よりかなり少なかった。経時的な変化を正確に捉えられていない可能性は否定できない。


私見

読んだ感想・読んでよかったこと

・2017年とちょいと古いですが、遠隔の遺伝カウンセリングは10%もなくて、意外に少ないなと思いました。アメリカでも病院所属の遺伝カウンセラーの面談スタイルは98%くらい対面なので、日本と変わらないのかなという印象です。

 

・一方で電話や遠隔の遺伝カウンセリングが増えているのは、病院以外で行われる遺伝カウンセリングが増えているってことだと予想しています。論文中の表1で並んでいる、病院以外遺伝カウンセリングの種類の多いこと!「遺伝カウンセリングが受けられる場の多様性」という意味では日本でも推進できたらいいなと思いました。

 

・この論文を読む前の私の予想は、「患者数が多い出生前検査やがんの領域は効率化が図られていそうで、患者数が少ない小児領域では対面が多そうだな」と思っていたのですが、実は領域ごとの差がほぼ無くて意外でした。

 

・何より胸に刺さったのは、著者からの「あんたは何で対面以外の方法をしようと思ってるのか?を明確にせい!万能な方法はないっちゅうことや!」というメッセージ。思わず赤字にしちゃいましたよ(笑)。確かに・・・。私はこの論文を読むまで「遺伝カウンセリングの方法はいろいろ用意した方が良い」って思い込んでたんですが、いろいろやればいいってもんでもないですよね。日本だと、NIPTの予約がとれない問題と、領域を限らず遠方で受けられない問題が切実で、それを解決する方法が必要と思います。

 

・とりあえずC0VID-19の影響=「多人数が密閉空間で集まって話ができない問題」を解決するには、遠隔の遺伝カウンセリングが必要だと思いますが、日本では医療者が複数名で遺伝カウンセリングを行うスタイルも多かったり、遺伝カウンセラーだけでは保険適応の遺伝カウンセリングはできなかったりと、アメリカとは違う点もあります。それに日本の医療システムは治療や検査ではない「カウンセリング」への評価も低い気がします。日本だとどういう形がいいんでしょうね・・・。一度、日本での遺伝カウンセリングの【対面式】、【電話】、【グループ式】、【遠隔ビデオ】のメリットとデメリットの比較表を作ってみたいと思いました。

 

以上です。

論文紹介の内容でご指摘などありましたら、コメントまでお願いいたします。

 

今日も読んでいただきありがとうございました。

いいね!と思ってくださった方は下の【⭐️ボタン】をクリックしていただけると嬉しいです。

応援してやってもよいぞ!という寛大な方は、【読者になる】をクリックしていただける、もっと嬉しいです。

 

井令 咲絵(いれさき)