理学部生、遺伝カウンセラーになる

"遺伝"と触れ合いながら生きていく、試行錯誤の記録。twitter @sakie_irayで最新情報を発信中。

【文献】遺伝カウンセリングのスタイルはどう変わったか(米国での2010と2017の比較)

GW真っ只中ですね。家で映画を観たり本を読んだり、意外に楽しんでいます、いれさきです。

読んだ本・映画で遺伝カウンセリングに関する作品については、twitterに簡単に感想を書いています。

 

さてさて、おもしろそうな論文がJournal of Genetic Counselingで出ていたので、まとめてみました。

 

論文タイトル

アメリカでの遺伝カウンセリングのスタイルの変化:2010年と2017年の比較

 

日本での遺伝カウンセリングは、病院に相談者さんが来て話をするのが一般的ですが、
他にどんなスタイルの遺伝カウンセリングがあるのでしょうか?

遠隔医療のイラスト(女性医師)

  • 今はCOVID-19の影響で、従来の「対面の遺伝カウンセリング」は延期になってしまっています。
  • 収束の見通しは立たない中、対面以外の方法で面談するとなると、各方法の特徴を知っておく必要がありそうです。
  • 今回は、遠隔の遺伝カウンセリングが発達しているアメリカの状況からヒントを得たいと思います。


この研究を1分で紹介

近年の遺伝カウンセリングのスタイルの変化を調べるために、アメリカ遺伝カウンセラー協会(NSGC)会員へwebアンケートを行い、2010年と2017年の結果を比較したところ、

  • 【対面】は有意に減り、【グループ形式】も少し減っていた。
  • 一方、【遠隔ビデオ】は有意に増え、【電話】も少し増えていた。
  • 2010年以降、3つか4つの方法を行っている遺伝カウンセラーが増えている。
  • 確かに多くの遺伝カウンセラーが他の遺伝カウンセリングのスタイルに関心をもっていたが、やり方が分からず導入が難しいと考えていた。
  • 患者が遠距離でアクセスできなかったり、予約日までの期間が長い問題を解決するには遠隔診療が必要。
  • 今後もこのような取り組みを推進するために、遺伝カウンセラーにノウハウを提供する体制が求められる。

この研究を詳しく紹介

Genetic Counseling Service Delivery Models in the United States: Assessment of changes in use from 2010 to 2017

Accepted: 22 February 2020
J Genet Couns. 2020;00:1–16.

背景

  • NSGCでは2009年より、遺伝カウンセリングへのアクセス改善を目的としたグループを作り調査研究を行なっている。

 

  • 対面の遺伝カウンセリングだけでは、距離の問題や、予約が取りづらい問題が生じ、質を落とさないで行う方法が模索されている。

 

  • 一般的に、医療サービスへのアクセスしやすさの評価としては【物理的に受診できるか】【費用面などの負担が小さいか】【公平性はあるか】【臨床的な有用性はどれくらいか】といった指標が用いられるが、遺伝カウンセリングのアクセスの評価基準は定まってはいない。

 

  • 今回は2010年と2017年に同様に行われた、遺伝カウンセリングのスタイルの実態について比較検討を行った。

 

方法

  • 2017年にNSGC協会員3616名にwebアンケートを行った。質問内容は2010年のアンケートとほぼ同じ51項目を用い、2010年と2017年の結果を比較検討した。

 

  • 面談のスタイルは【対面式】、【電話】、【グループ式】、【遠隔ビデオ】の4つで調査した。

 

  • スタイルごとの実施頻度は【常に】、【頻繁に】、【時々】、【まれに】、【全くなし】の5段階スケールで尋ね、解析時には【常に】と【頻繁に】→【実施群】、それ以外→【非実施群】の二値変数にして検定した。(有意水準=0.05)
  • 遺伝カウンセリングの領域は【がん】、【循環器】、【遺伝一般】、【出生前】【小児】、【多領域】、【その他】に分けた。

 

  • 面談のスタイルごとの特徴を把握するために 【1.予約まで何週間待ちか?】、【2.患者が来院までにかかる時間は?】、【3.1週間に受け入れ可能な新規患者数は?】、【4.遺伝カウンセリングにかかった時間は?】、【5.予約の律速段階は?】、【6.何のサービスに対して費用を請求したか?】、【7.保険適用するためにどの医事コードを使ったか?】、【8.患者の来談経緯は?】の質問を用いた。

 

結果

  • 590名の回答(回答率16%)があり、517名の回答を解析対象とした。

 

  • 【対面式】の2017年の割合は92%で、2010年と比較して有意に減少していた。例えば【常に対面式】の割合は65%から58%に減少していた。予約日までの日数は有意に増えていた。最も日数が長い領域は、小児と遺伝一般で、約2ヶ月待ちであり、これは2010年と変わっていなかった。

 

  • 【電話】の2017年の割合は13%で、2010年と比べて増加傾向にあった。他の方法に比較して最も予約がとりやすい方法(1週間以内)であるが、7年前に比べると予約が混んでいる傾向が見られた。面談時間が30分未満の短いケースが増えていると同時に、60分以上のケースも増えており、初回面談も電話で行なう機会が増えていると分かった。

 

  • 【グループ】の2017年の割合は1%で、2010年と比べて減少傾向にあった。グループ面談のあとに、30分程度の個人との面談を設けるケースは58%あったが、個人面談を全く行わないケースも26%あった。また、保険が適用されない場合が多かった。

 

  • 【遠隔ビデオ】の2017年の割合は7%で、2010年と比較して有意に増加していた。予約の待ち時間も2週間以内が半数であった。他の方法と比較して、遠方の患者(来院まで2時間以上)の割合が最も多く、7年前と比較して近距離の患者との面談数も増加していた。

 

考察

  • 7年前と変わらなかった点・・・遺伝カウンセラー達は各自が複数のスタイルで面談しているにも関わらず、1週間に受け入れ可能な新規患者数は増えておらず、遺伝カウンセリングにかかる時間も減っていなかった。予約日までの期間は短くなっていないことから、効率をあげる工夫がさらに求められる。

 

  • 7年前と特に違った点①・・・どのスタイルにおいても、予約の律速段階で最も多いのが【遺伝カウンセラーの予定】だった。これは遺伝カウンセラーの需要に対し人数が足りていないことを示唆している。小児領域では【医師の予定】が最も多かった。

 

  • 7年前と特に違った点②・・・使用した医事コードを見ると、以前は医師の名前でオーダーしていたが、遺伝カウンセラーが自分の名前で「遺伝カウンセラーによる面談」で医療保険での支払いをオーダーしている数が増えていた。遺伝カウンセラーに免許を認める州が増えているからだろう。これにより、医師の予定が合わなくても面談ができるようになり、高まる遺伝カウンセリングの需要に応えることが可能になっていると考えられる。

 

  • 電話や遠隔ビデオでの面談では、遠方の患者だけでなく、近くの患者の数も増えていた。テクノロジーの発達に伴って、患者希望で遠隔を用いる機会が増えていると予想される。また、電話や遠隔ビデオを用いる遺伝カウンセラーは皆、対面式の面談も行っていたので、おそらく、患者の状況に応じて使い分けができるようにしているのだろう。

 

  • アンケートにあったコメントからは、電話での面談は結果説明やフォローアップに用いられることが多いことが分かった。初回の面談は対面式で行い、それ以降は電話で行うスタイルも依然として多いようである。実際、電話での面談は30分以下と、他のスタイルと比較して最も短時間だった。

 

提案

  • 今回の調査では各面談スタイルの大きな変化は認めなかった。

 

  • 今回新たに分かった課題として、遺伝カウンセラーが何のために新しい面談方法を模索するのかをはっきりさせる必要がある単位時間に対応できる患者数を増やすため?それとも、これまで遺伝カウンセリングが受けられなかった層(物理的or経済的)へサービスを届けるため?はたまた、1人の患者にかけれる面談時間を長くするため?

 

  • このような目的は各施設によって異なるため、「これが良い」という面談スタイルはない。むしろ、各自が目的にあったスタイルを選択できるようになるのがよいのだろう。

 

限界

サンプル数が少ない、特に電話遺伝カウンセリング会社に勤める遺伝カウンセラーのサンプル数が、本来いるはずの人数よりかなり少なかった。経時的な変化を正確に捉えられていない可能性は否定できない。


私見

読んだ感想・読んでよかったこと

・2017年とちょいと古いですが、遠隔の遺伝カウンセリングは10%もなくて、意外に少ないなと思いました。アメリカでも病院所属の遺伝カウンセラーの面談スタイルは98%くらい対面なので、日本と変わらないのかなという印象です。

 

・一方で電話や遠隔の遺伝カウンセリングが増えているのは、病院以外で行われる遺伝カウンセリングが増えているってことだと予想しています。論文中の表1で並んでいる、病院以外遺伝カウンセリングの種類の多いこと!「遺伝カウンセリングが受けられる場の多様性」という意味では日本でも推進できたらいいなと思いました。

 

・この論文を読む前の私の予想は、「患者数が多い出生前検査やがんの領域は効率化が図られていそうで、患者数が少ない小児領域では対面が多そうだな」と思っていたのですが、実は領域ごとの差がほぼ無くて意外でした。

 

・何より胸に刺さったのは、著者からの「あんたは何で対面以外の方法をしようと思ってるのか?を明確にせい!万能な方法はないっちゅうことや!」というメッセージ。思わず赤字にしちゃいましたよ(笑)。確かに・・・。私はこの論文を読むまで「遺伝カウンセリングの方法はいろいろ用意した方が良い」って思い込んでたんですが、いろいろやればいいってもんでもないですよね。日本だと、NIPTの予約がとれない問題と、領域を限らず遠方で受けられない問題が切実で、それを解決する方法が必要と思います。

 

・とりあえずC0VID-19の影響=「多人数が密閉空間で集まって話ができない問題」を解決するには、遠隔の遺伝カウンセリングが必要だと思いますが、日本では医療者が複数名で遺伝カウンセリングを行うスタイルも多かったり、遺伝カウンセラーだけでは保険適応の遺伝カウンセリングはできなかったりと、アメリカとは違う点もあります。それに日本の医療システムは治療や検査ではない「カウンセリング」への評価も低い気がします。日本だとどういう形がいいんでしょうね・・・。一度、日本での遺伝カウンセリングの【対面式】、【電話】、【グループ式】、【遠隔ビデオ】のメリットとデメリットの比較表を作ってみたいと思いました。

 

以上です。

論文紹介の内容でご指摘などありましたら、コメントまでお願いいたします。

 

今日も読んでいただきありがとうございました。

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井令 咲絵(いれさき)

 

 

【文献】遺伝カウンセラーの給与の男女差について

今日は論文紹介です。

「忙しくて論文なんて読む時間がないけど、おもしろそうな研究は気になる!」という方の役に立てたらいいなと思い、稚拙な頭でトライしてみます。

 

さてさて、遺伝カウンセリングに関する研究が集まった雑誌に、Journal of Genetic Counselingがあります。

https://onlinelibrary.wiley.com/journal/15733599

この中で私が興味を持った論文をピックアップして紹介します。

 

論文タイトル

「遺伝カウンセリング担当者の男女の給与の差について」

 

遺伝カウンセラーのお給料に男女差はあるのでしょうか?
どういう領域でその傾向が顕著なのでしょうか?

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  • そもそも社会一般的に女性の方が男性よりも年収は少ないという格差があります。
  • NSGC(米国遺伝カウンセラー協会)の調査でも既に遺伝カウンセラーの年収に男女差があることが分かっています。
  • 今回は「じゃぁ、なんで男女の遺伝カウンセラーで年収が違ってるの?特にどういう現場で起きてるの?」という疑問を深堀りした研究です。

 

この研究を1分で紹介

NSGC(米国遺伝カウンセラー協会)会員へwebアンケートを行い、年収と様々な要素の関係を調べたところ、

  • 全体的に女性の遺伝カウンセラー*1の給与は男性より低く、特に臨床以外で働く遺伝カウンセラーではその差が顕著だった。
  • 男女が同じ割合で昇進の交渉していたとしても、また、リーダーシップの経験が同じでも、男性遺伝カウンセラーの方が賃金が高いことがわかった。
  • 遺伝カウンセラーの間でこの賃金格差に気づいている人は少なかったため、事実の周知と、交渉やリーダーシップの教育を進めていく必要がある。

 

この研究を詳しく紹介

The gendered pay gap in genetic counseling

First published:03 March 2020

https://doi.org/10.1002/jgc4.1236OPEN ACCESS)

 

背景

  • アメリカの遺伝カウンセラーの95%は女性である。

 

  • 年収を性別で比較すると、男性遺伝カウンセラーは女性よりも平均で約9,400ドル高いと分かっている(2019年)。

 

  • しかし、その理由は不明であり、もし不平等な待遇や社会的偏見があるなら対処する必要がある。

 

  • 一般的に男女の賃金格差が生じる理由として、男性の方がより交渉する機会が多く、また、交渉が成功しやすいから、リーダー職に男性が多いから、女性は家庭の役割を担うことが多くパートタイムで働く人が多いから、という点が研究で指摘されている。

 

  • また、女性の割合が多い業種において男性は「ガラスのエスカレーター効果」を経験しやすいと言われている。(同じ資格を持つ女性よりも高い割合で管理職に就く傾向のこと)

 

  • これらの原因が遺伝カウンセラーの間でも起きているのかどうか、今回初めて公式に調査した。

 

方法

  • 2019年6-9月にNSGC(米国遺伝カウンセラー協会)会員へwebアンケートを実施した。
  • 質問は5つのパートで構成された。
  • ①基本情報(人種、年齢、性別、障害の有無、学歴や資格、経験年数、勤務内容が臨床か非臨床か)
  • ②年収と雇用形態
  • ③これまでに昇給の交渉をした回数や成功率、交渉の方法、管理職としての経験の有無
  • ④パートタイム勤務をしたことがあるか、他のキャリアがあるか、産休・育休など休暇を取得できているか、ボーナスの有無 
  • ⑤自分の給与に満足しているか、自分にとっての給与の意味は何か
  • 母数が少ない男性遺伝カウンセラーの回答率をあげるために、雪だま式サンプリング法を用いた。
  • それぞれの項目のうち、年収と有意に関連がある項目を説明変数として、年収を目的変数とした多変量解析を行った。

結果

  • 392件の回答(10%)が得られ、355件を分析対象とした。
  • ①の質問への回答では、臨床での勤務者は約75%だった。

 

  • 各質問項目のうち、下記の項目で男女で有意差が認められた。

【人種】男性の方がヒスパニック系・ラテン系の遺伝カウンセラーの割合が高い
【臨床か非臨床か】男性の方が非臨床で働く割合が高い
【臨床の遺伝カウンセラーの年収】男性の方が女性より平均年収が4,048ドル高い
【非臨床の遺伝カウンセラーの年収】男性の方が女性より平均年収が20,888ドル高い

 

  • 性別に関わらず年収との関連を認めた要素は、性別制度委員会の認定を受けているかどうか臨床か非臨床か経験年数交渉の回数リーダーシップ経験の回数であった。

 

  • 臨床の遺伝カウンセラーの年収に対して、上記の要素を説明変数として多変量解析を実施した結果、性別だけ有意差を認めず、他は有意な関連を認めた。有意差はなかったものの、他の因子を調整したうえでの男女の年収差は約1,500ドルと予想された。

 

  • 非臨床の遺伝カウンセラーの年収に対して、同様の解析を実施した結果、性別経験年数のみが有意な関連を示した。他の因子を調整したうえでの男女の年収差は約24,000ドルと予想された。

 

  • 賃金格差があるかどうかの意識調査では、女性遺伝カウンセラーでは61%、男性遺伝カウンセラーでは44%であり有意差を認めた。「管理職になる機会が男女で平等である」と答えた割合は女性遺伝カウンセラーで79%、男性で89%とともに高かったが、はやり女性では少なかった。

 

  • 自分の給与への満足度は、遺伝カウンセラー全体で75%だった。また、65%が給与は「自分の仕事の価値を示すもの」と答えていた。

考察

  • 遺伝カウンセラーの男女の年収予測モデルでは、男女が同じ割合で交渉していたとしても、また、リーダーシップの経験が同じでも、男性遺伝カウンセラーの方が賃金が高いことがわかった。つまり、遺伝カウンセラーの間でも看護職でみられるような「ガラスのエスカレーター」効果が起きている可能性がある。

 

  • そもそも遺伝カウンセラーの大多数が女性である要因として、「援助職」=「女性の仕事」という社会的観念が影響しているかもしれない。遺伝カウンセラーは分子/臨床遺伝学から心理支援まで広い技能を持ち合わせているが「援助職」とくくられることで社会的に「女性の仕事」とみなされている可能性がある。また、女性は仕事に対し「昇給の交渉をすることで雇用主からの評価が下がるのでは」と思いやすい傾向があり、女性が多い職種で給与格差を広げる要因となっている。

 

  • 他の社会学研究で、女性は自身の給料を他の女性と比べて適切かどうか判断する傾向があると知られている。今回の研究で女性遺伝カウンセラーの大半が「自身の給与に満足している」と回答していることからも、女性遺伝カウンセラーが男女の賃金格差に気付かないままでいると、不当に低い初任給で雇用されたり昇給の機会を得られないでいる可能性がある。

 

  • 非臨床の遺伝カウンセラーの給与が臨床より高かった要因としては、営業・経営企画・人事など他の役職に対する給与が付与されるからではないかと予想される。非臨床の遺伝カウンセラーに男性が多い理由としては、非臨床では心理社会的な援助技能はほとんど必要とされないため、「援助職」のイメージが薄れるからだろう。また、男性遺伝カウンセラーの方が給与が高い傾向の理由として、臨床より企業の方が昇給の機会が多く、その際に男性が方が大胆な昇給を要求する傾向があるからではないかと予想される。 

提案

  • 回答者の多くは賃金の不平等があることに気づいていなかったことから、遺伝カウンセラーの職能団体は全ての遺伝カウンセラーにその事実を周知する必要がある。そうすることで雇用主側も男女の賃金差について説明責任が生じ、賃金格差が是正されていくだろう。

 

  • また、職能団体は、男女の賃金格差をなくすために、全ての遺伝カウンセラーに対し、交渉やリーダーシップのスキルを提供する仕事をする必要がある。

限界

  • 回答率が10%低いため、遺伝カウンセラー全体の傾向を捉え切れていない可能性がある。
  • 回答者の中では比較的若い年齢の遺伝カウンセラーが多かったため、以前のパートタイム勤務、離職、出産/育児休暇を経験した遺伝カウンセラーが少なく、これらが年収に与える影響を正確に測定できていない可能性がある。
  • 測定されていない項目が年収に影響を与えている可能性は否定できない。

以上です。

 

私見

読んだ感想・読んでよかったこと

  • アメリカの遺伝カウンセラーの年収は男性より女性の方が低いということ自体を初めて知った。

 

  • しかも「ガラスのエスカレーター効果」という「ガラスの天井」の逆があるということも初めて知った。

 

  • 「一般的に女性の方が、昇給を要求することにネガティブなイメージを持ちやすく、賃金格差の原因になっている」という点は「私やっちゃってるわー」と痛感する自分のためにも未来の遺伝カウンセラーのためにも、今後は意識していきたいと思う。

 

  • 男女の賃金差が非臨床の方が顕著という点は、裏返せば、病院勤務では、性別に関わらず昇進・昇給は簡単ではないということですよね・・・。病院勤務の私にとっては、うすうす分かっていたことだがやはり残念。

 

  • しかし!今回の研究で、性別に関わらず遺伝カウンセラーの昇給に影響する因子が知れて、モチベーションアップにつながった。臨床の遺伝カウンセラーの昇給の要因は、経験年数交渉の回数リーダーシップ経験の回数】!今後のキャリアプランを考えるにあたり、このような要素を意識すれば「ずっと同じ年収を脱出できるはず!」と希望を持てた。専門職の技能も大切だけど、こういう「世渡り術」って大事ってことですね。

 

  • 女性でも男性でも、遺伝カウンセラーの給与は臨床より会社勤務の方が良さそう。特に男性遺伝カウンセラーは会社勤務の方が病院勤務より昇給の機会は多いと予想されるので、キャリア形成の参考になるかもしれない。

 

  • とはいえ、何を仕事で重視するかは人によって様々。あくまで今回は年収だけに特化した話なので、年収と「仕事への満足度」はまた違うと思います。

 

  • アメリカの遺伝カウンセラーの年収の高さに、改めてびっくり。医療従事者全体的に日本の方が年収は低いと聞きますが、ちょっと悲しい(泣)

 

詳しく内容を知りたい方はオープンアクセスで誰でも全文を読めますのでチェックしてみてください。

また、論文紹介の内容でご指摘などありましたら、コメントまでお願いいたします。

 


今日も読んでいただきありがとうございました。

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 井令 咲絵(いれさき)

*1:原著は「遺伝カウンセラー」ではなく「遺伝カウンセリング専門職」と記載されています。アメリカでは「認定遺伝カウンセラー」以外にも「遺伝カウンセリング担当者」として活躍している方々がいるためですが、ここでは分かりやすくするために「遺伝カウンセラー」と記載しています。

COVID-19の感染対策と遠隔遺伝カウンセリング

COVID-19の影響で、勤務先の遺伝カウンセリング外来も対応を求められています。

 

遺伝カウンセラーどうし、こういう時こそ助け合っていけたらいいなと思うのですが、プラットフォームがないのでなかなか難しいですね。

同じように困っている遺伝カウンセラーの参考になれば幸いです。

 

遺伝カウンセリング外来での感染対策

  • 緊急でない内容の遺伝カウンセリングは全て延期
  • 来院のマスク装用と手洗いのお願い
  • 遺伝カウンセリング前後の共用部分(ドアノブや机、椅子や備品)の消毒
  • 同席できる家族の人数を1名に制限。医療者も最低人数で。
  • 遺伝カウンセリング中の換気のために窓や扉を開ける
  • 来談者と遺伝カウンセラーは机の端どうしに座る
  • 遺伝カウンセラーもマスとアイシールド装着

という対応を今週から始めました。

 

特に今までと違って困った点

緊急でない内容の遺伝カウンセリングは全て延期

・出生前検査の遺伝カウンセリング

乳がんの術式決定のためのBRCA検査の遺伝カウンセリング

上記2つの内容以外は基本的に延期をお願いしています。

とりあえず半年後に予約を延期して、その時にまた状況をみて判断する方針にしました。今のところ皆さん快くOKしていただいています。

 

同席できる家族の人数を1名に制限

遺伝カウンセリングでは、家族に一緒に聞いてもらってこそ意味があるセッションも多いです。それを制限することになるのは心苦しいですが、3密防止のためには致し方ないと考えています。

今までもそうでしたが、遺伝カウンセリング終了時に、家族と帰ってから情報を共有できるように資料をお渡ししています。

 

遺伝カウンセリング中の換気

これもプライバシーを大切にする遺伝カウンセリングでは、できるだけ避けたいものです。

しかし3密対策のために、空気の通り道を必ず確保しています。

窓がない部屋では空調や空気清浄機の送風を「強」にし、扉を少し開けています。

 

来談者と遺伝カウンセラーは机の端どうしに座る

診察室のような配置の場合は難しいですが、楕円型のテーブルがある遺伝カウンセリング室では、人と人との距離をできるだけとるようにしています。

使う資料は、人数分コピーし、離れていても全員が同じ資料を見れるように工夫しています。

今度プロジェクターを使ってようかとも思案中です。

 

所感

来談者も遺伝カウンセラーもマスクを着けているため、互いの表情が分かりづらく、さらに物理的距離も離れていて、とてもやりづらいです。

さらにアイシールドまで付けたら患者さんとの「壁」がまた増えてしまいます。仕方ないですが、いつまでこの感じが続くのか・・・(T.T)

今まで普通にできていたことがいかに有難いことだったか、痛感しています。

 

病院感染対策部門からは「患者さんとの接触時間はできるだけ短く済ますように」との指導もあり、本来は遺伝カウンセリングでもテキパキ進めないといけないのかもしれません。

でも、それだともはや「遺伝カウンセリング」ではなくなってしまうので、時間はあまり気にしないようにしています。対話のスピードはいつも通りです。

 

このように、感染リスクを下げる工夫は色々していますが、

本来は「病院に来ること自体がリスク」ですので、遠隔で遺伝カウンセリングができるのが一番です。検査の日にだけ来院してもらえたら十分です。

 

遺伝カウンセラーだって、COVID-19の診療には直接かかわることはできない職種ですので、テレワークができるなら在宅勤務にした方が社会的も望ましいでしょう。

 

アメリカでは様々な遠隔遺伝カウンセリングのサービスがあるようです。

 

この会社の、COVID-19蔓延下での遠隔遺伝カウンセリングの説明は、読んだらすごく勉強になりました。

news.at-gc.com

他に遠隔遺伝カウンセリングを提供している会社は、

ここと、

www.greygenetics.com

ここと、

integratedgenetics.com

ここと、

www.veritasgenetics.com

ここと、

www.insightmedicalgenetics.com

ここと、

https://www.gene-matters.com/

 

こちらは電話の遺伝カウンセリングですね。

https://www.invitae.com/en/individuals/genetic-counseling/

 

って、調べたらどんどん出てくるんですけど!笑

うらやましい!

 

アメリカはweb上で電子カルテ閲覧が可能とのことで、オンライン診療がしやすいんですね。

会社によっては、ZOOMで遺伝カウンセリングしているところもあり、私でもできそうな気がしてしまいます。

 

日本ではどうでしょうか。

遠隔での遺伝の相談を受けているのは、私が探した限り、がん研有明病院しか見つかりませんでした。

www.jfcr.or.jp

 

このような遠隔診療の支援ソフトはいくつかあるようで、こういうのを病院にお願いして導入してもらえばいいんでしょうか。

 

普段、私も含めて遺伝カウンセラーは「多様性が大切」と言っているのに、遺伝カウンセリングの形の多様性に欠けていたせいで、いざという時に困ってしまい。

情けない限りです。

 

変化に適応するには多様性が大切。

遺伝カウンセリングは病院でなくても、昼間でなくても、対面じゃなくても、通話でなくても、工夫すればできるはず。

さまざまな形の遺伝カウンセリングを模索していきたいと思います。

 

 

今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵(いれさき)

 

理学部生が遺伝カウンセラーの大学院に合格するまで

先日、理学部生で遺伝カウンセラーを目指している方からコメントいただきました。

ありがとうございます。励みになります。

 

私と同じような状況の方の参考になればと、

私が学部生の時に、どういうスケジュールで遺伝カウンセラー養成大学院の受験までを過ごしたかを紹介します。

 

私が遺伝カウンセラー養成大学院に入学したのは5年以上前ですが、

当時の日記を紐解いて綴ってみたいと思います。

 

 

遺伝カウンセラー養成大学院の受験までの日々

<学部2年生>

【春】

生命倫理の講義で「遺伝カウンセリング」「遺伝カウンセラー」の存在を知る。

遺伝カウンセラーの仕事に興味を持ち始める。

 

【秋】

都内のがん専門病院で、遺伝カウンセリングを見学させていただく機会を得る。

認定遺伝カウンセラー、臨床遺伝専門医に初めて会う。

大学院で遺伝カウンセラーの勉強をすることを考え始める。

 

【2月】

・遺伝カウンセラー大学院の過去問を入手する。

 

同時に、理学の研究者を目指す場合に進学したい大学院の過去問も入手する。

 

・遺伝カウンセラー養成課程の過去問を見て、「どう勉強したら良いかが検討もつかない問題」(のちに「疫学」「医療統計学」と呼ぶと知る)ばかりという現実に打ちひしがれる。

院試過去問は解かれることなく約1年寝かされる。

 

<学部3年生>

【春〜秋】

サークル活動やアルバイトに熱中する。

周りの友人達が「就活どうする?」という話をし始め、

自分は就活するのか、大学院に進学するのか、

進学するにしても理学系のままでいくのか、遺伝カウンセラーを目指すのか、深く悩み始める。

 

【12月】

卒業研究を行う研究室の希望を出す。

遺伝カウンセラーの勉強にも役立ちそうな発生学の研究室を志望する。

 

【2月】

・希望の研究室の教授へ改めて挨拶。

修士は他の大学院へ進学するつもりであると伝える。

 

・いくつか就活セミナーに参加するも、どうもしっくり来ず。自分は就活しないことを決める。

 

・新卒で遺伝カウンセラー養成大学院へ進学した方と連絡をとることができ、話を聞いて「遺伝カウンセラーを目指そう」と気持ちが強くなる。

 

【3月】

・約1年眠らせていた遺伝カウンセラー養成課程の院試過去問を取り出す。

医学部に行った高校の友人にお願いして、

「この問題を解けるようになるには何という教科の参考書を見たらよいか」を教えてもらう。

そして、疫学、臨床統計学、生理学、医療倫理学のテキストを買う。

 

・一方、卒業研究の研究室で、引き継ぎを受ける。

同じ研究テーマの先輩が修士2年で卒業を迎え、

他に指導してもらえる先輩もいなかったため、

時間が許す限り、先輩に繰り返し実験を見てもらって指導を受ける。

夜遅くまで1人で実験手技を復習する1ヶ月。

到底、院試対策のテキストを開く余裕はなし。

 

・休日に日本学術会議が主催していた「遺伝リテラシー初等教育にどう組み込むか?」というシンポジウムに参加してみる。

最前線の議論を見て「遺伝カウンセリングの分野っておもしろいな」とワクワクする。

 

<学部4年生>

【4月】

・研究室生活が本格始動。今までの自由な時間が無くなり、朝から晩まで実験に向き合う生活に小さな絶望感を覚える。

・そんな中でも、この基礎研究の経験がきっと遺伝カウンセラーの仕事にも役立つはずと信じて踏ん張る。

・卒業研究の指導教授には、院試の直前には勉強のための休みをいただきたいこと、この1年で出来る限りの結果が残せるよう尽力することを伝える。

 

【5月】

・遺伝カウンセラー養成大学院のオープンキャンパスに参加申し込み。

3つの大学院のオープンキャンパスに行くことに。

 

・過去問を解き始める。とりあえず解ける問題から手をつけてみる。

 

・各大学のオープンキャンパスに参加。

過去問をコピーしたり、在学生に過去問の勉強方法を聞いたり、教授に志望動機を話してコメントをいただいたり。

実際の雰囲気(人や環境)を知れて、「ここに行きたい」と志望校が固まる。

 

オープンキャンパスに複数参加すると、「あ、この前もいたね!」という人が見つかる。連絡先を交換して、励まし合う仲間を得る。

 

・卒業研究と院試勉強の両立に悩み始める。同学年で外の大学院へ進学する仲間とグループを作って、ノウハウを共有する。また、同じ研究室で昨年に外部へ進学した先輩にアドバイスをいただく。

結果、朝の6:30から実験を始め、17:30に図書館に移動して院試勉強という予定で両立を図る。

 

【6月】

・遺伝カウンセリング学会に2日間参加。「早く遺伝カウンセラーになってこの議論に参加したい!」と気持ちを熱くする。

以降、院試勉強にさらに熱が入る。あつつっ。

 

・大学の図書館の「医学系」コーナーに入ると、院試に役立ちそうな本がたくさんあることに気づく。特に「ヒトの分子遺伝学」を読むと、今勉強していることが遺伝カウンセラーの勉強につながることを実感でき、嬉しさから院試勉強にはずみがつく。

 

【7月】

・願書に必要な志望理由書を書く。両親が医療職だったので、両親に添削してもらう。学費を出していただく親にやる気をアピールする意味でも。

 

・願書は2大学に提出。どちらも遺伝カウンセラー養成大学院。受験料も交通費もかなりかかるので増やしたくない一方、あとには引けない状態なので併願することに。

 

・院試勉強中に「遺伝カウンセリング」というキーワードでネットサーフィンしていると、「泣いて笑って」という出生前診断をめぐる当事者の会のwebサイトにたどり着く。

初めて知る事実、初めて覚える感情に圧倒される。私もこのような凄まじい現場で役に立つ人材になりたいと気持ち強くする。

 

【8月】

・第2志望の大学院では、入試にプレゼンテーション課題があったため、その作成を始める。

 

・一方、卒業研究は中間報告会のためにデータの集計、画像のトリミング作業などに追われる。

 

・なんとか卒業研究の中間目標を達成し、指導教授に頑張りを認めていただいた上で、院試勉強のための休み期間(1週間)に入る。

 

・1週間前からは、図書館やカフェでひたすら過去問を繰り返し解き続ける。プレゼン課題は、発表の声を録音して繰り返し聞き、口が勝手に話せるくらいに仕上げた。

 

・試験の数日前、志望大学院は違えどプレゼン課題がある同級生で集まって、お互いの発表を見合う会を開催。質疑応答の対策になった。

 

・8月後半、2大学の院試を無事に終了。どちらの面接でも併願しているかを聞かれ、正直に答える。

・第一志望の大学院は、遺伝カウンセラー養成課程の定員3名に対し志望者11名。いろいろトラブルあるも、試験が終われば、あとは野となれ山となれ。その夜は、ずっと会いたかった高校の同級生達と楽しく飲み明かす。

 

【9月】

・まず第2志望の大学院の合格発表。合格。とりあえず遺伝カウンセラーになる切符はゲットできて一安心。

 

・数日後に第1志望の大学院の合格発表。PCの画面に自分の受験番号を見つけて、飛び上がる気持ち。ただ、研究室では周りは粛々と実験しているので、誰もいない実験棚に隠れて、静かに喜びの踊りを踊る。

 

・指導教授に大学院合格を報告。これまで暖かく見守っていただいたことへの感謝と引き続き卒業研究に精を出すことも併せて。

 

・第2志望の大学院の指導教授に、第1志望の方へ進学したい旨を伝える。その先生に「あそこのカリキュラムは素晴らしいのでしっかり頑張って」と背中を押してもらい感動する。

 

・しばらく日が過ぎ、第1志望の大学院の指導教授からメールで「入学を辞退する場合は早めに連絡を」という連絡来ていたことに、受信日から1週間後に気づく。焦って入学希望であることとご挨拶のメールを打つ。

 

・それからは「講義で使うテキストを購入しておくように」と連絡があり、その本を読み進める。カウンセリングの本を読んで、当時の「理学アタマ」には理解できない内容に少し拒否感を覚える。

 

 

【10月から卒業まで】

・遺伝カウンセラーに関する活動はほとんどせず、卒業研究に没頭。卒業研究のレポート提出が2月末と他の学部に比べて遅かったので、手が離れたときには、もう4月に向けて引っ越しやら何やらでバタバタの毎日。

 

大学院生活スタート

【4月】

・新しい場所での生活に慣れる間もなく大学院初日。これから2年間、苦楽をともにする同期

2人と初対面!ドキドキ波乱万丈の遺伝カウンセラー院生生活が始まる。

 

以上です。

 

振り返ってみて思うこと

こうして振り返ると当時の「遺伝カウンセラーになりたい!」という気持ちを鮮明に思い出します。

はやり卒業研究との院試勉強の両立が大変でしたね。

理学部って研究者になるための学部ですから、修士まで研究するは空気を吸うのと同じくらい当たり前、研究者になるなら博士まで進学するのは最低条件という雰囲気です。

そんな中、「学部でこの研究室をおさらばします」という言うのは、まるで「研究者をあきらめた落ちこぼれです」と言っているようなもの、と思ってしまうんですよね。

 

でも、決してそんなことはありません。

理学部の時に培った、研究に対する粘り強さやなぜなんだろう?と問い続ける姿勢は、遺伝カウンセラーになっても生きてきます。

 

同じ進路を目指す人が周りにいない孤独な戦いですが、ここにない未知の世界へ絶対いくんだ!という強い気持ちがあって乗り切りることができました。

もし同じように悩んでいる人がいたら、その気持ちを信頼できる人に話してくださいね。応援してくれる人が絶対にいます。私も全力で応援しています。

 

質問へのお答えコーナー

理学部生が、遺伝カウンセラー養成課程に入学する前にしておいた方がいいことは?

さて、いただいた質問の「理学部生が、遺伝カウンセラー養成課程に入学する前にしておいた方がいいことは?」ですが、

人の心に注目する機会を増やしてみる、がいいと思います。

 

理学部では、全くと言っていいほど「人の心」に関する話は出てきませんよね。まだ知られていない自然法則を見つけ出すのに、感情は必要ありませんから。

私も入学するまでに「人の心の動き」に注目して過ごしたことはほとんどありませんでした。

 

しかし、遺伝カウンセラーの大学院ではロールプレイと言って、模擬遺伝カウンセリングの演習があります。そこでは、相手の考えや感情を想像する力が求められます。

 

もちろん入学前に患者さんと話す機会はありませんので、友達でも家族でも、テレビのニュースでインタビューを受けている人でもいいです。

これまでのように、ただ受け流すのではなく、ふとした時に想像してみてください。

 

いま、目の前でこの言葉を語り、この表情をしている人は、いったいどんな感情なのか?

なぜこんな感情を抱いているのか?

 

これは自分に対して行ってみてもいいですね。それを日記に書けば、感情を言葉にする訓練にもなります。言葉にするには、まず認識する必要があり、それが相手の気持ちを想像する力に結びついていくと思いますので。

 

え、そんな小さいこと?と思われるかもしれませんが、

きっと当時の私には新しい試みだったし、難しい課題だったと思います。「正解は誰にも分からない問いを考える」ということ自体が私にとっては苦痛だったからです。

 

あとは、患者さんの体験記を読むのもとても良いと思います。

大学院の講義で「この時の患者さんの考え、感情を想像してみる」というワークがありますので、きっと役に立つでしょう。

実際、大学院に入学すると、課題に追われてテキスト以外の本を読む時間がとれないので、もし入学前に時間がとれるならオススメです。

 

といっても「病気」と縁遠い生活をしてきた理学部生にとっては、未知の世界で、とっつきにくいですよね。

本でも、マンガでも、映画でも良いです。Amazonで検索したり、本屋のエッセイ棚に行ったりして、好きなジャンルのものを手にとってみてください。

そして、「そうなんだ!」「これって何でなんだろう?」と思う箇所があればぜひマークしてください。

その「はじめての感情」は、患者さんの気持ちを想像するのにとても大切なのに、病院で仕事をしていくうちに見えなくなっていきます。

この頃のあなたにしかできない貴重な体験ですので、ぜひ試してみてくださいね。

 

何はなくても「コウノドリ」は漫画でもドラマでも見れて、内容も素晴らしいのでおすすめです。遺伝カウンセラーも登場しますよ。

 

以上です。

今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵 (いれさき)

令和2年度診療報酬改定の留意事項がややこしい件

先日の3月5日に発表された、
今度の診療報酬改定に関する様々な新しい資料。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00001.html

 

まず診療報酬改定の概要スライドをチェック。

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000604766.pdf


遺伝性乳がん卵巣がん症候群の診療のスライドを見てみると、
最後の最後に、
「(BRCA1/2遺伝子検査について)説明した結果、区分番号D006―18の2に掲げるBRCA1/2遺伝子検査の血液を検体とするものを実施し、遺伝カウンセリング加算を算定する場合は、がん患者指導管理料ニの所定点数は算定できない


( ゚д゚)!!

え・・・っと、どういうこと?

 

外来主治医がBRCA1/2検査の説明をしたら、がん患者指導管理料ニが算定できると思ってたのですが。

 

検査結果について遺伝カウンセリングをしたら、がん患者指導管理料ニは算定できないということは、つまり、
BRCA1/2検査の説明をして、患者さんが検査を受けなかった時だけ、がん患者指導管理料ニを算定できるってこと?

 

もしそうなら、この直感と反するルールはややこしいし、

外来担当医がしていることは同じなのに算定できたりできなかったりするのは変な気がします。

 

いろいろ書きましたが、まだ原文の、
「01(医科)診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000604939.pdf


を読めていないので、きちんと確認します。

 

 

勤務先での新しいHBOC診療体制について、それぞれの施設である程度詰めていたのですが、今回の留意事項の情報を踏まえて変える必要がありそうです。

 

取り急ぎの情報シェアでした。

今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵(いれさき)

障害児入所施設の在り方に関する検討会の最終報告書

先週2/10付で厚労省より公開されました。

https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000593534.pdf

 

まだ全ては読めていないのですが、
遺伝カウンセラーは知っておきたい内容です。

 

遺伝カウンセリングの中で、
「障害のある子を育てられるだろうか?」
と親御さんに問われることは多々あります。


出生前検査を希望するご夫婦から。

胎児の疾患が疑われ、妊娠を継続するか迷うご夫婦から。

赤ちゃんに先天性の疾患があると生後すぐに知らされたご夫婦から。

ご自身に遺伝性の疾患があり、子どもに遺伝する可能性のあるご夫婦から。

子どもに遺伝性の疾患があり、次の子も同じ疾患を持つ可能性のあるご夫婦から。


「もし子どもに障害があったらどういう生活になるのでしょうか?」

 

この質問への答え方によっては、
目の前の家族の未来が大きく変わる可能性があります。

 

それゆえ、遺伝カウンセラーは障害のある子どもの「病院の外の生活」について情報を集めておく必要があります。

 

もちろん医療ソーシャルワーカーの方が詳細な説明をしてもらえますが、
いきなり「詳しい説明を聞きたい」というご夫婦はそう多くありません。

そのため遺伝カウンセリングでは概要だけでもお話しできるようにしておく方が望ましいでしょう。


今回の資料は、障害児入所施設に関する報告書です。

 

様々な理由で家族と暮らすことができない障害のあるお子さんの暮らしについて、
病院の中にいると知る機会はほとんどありません。

 

でも、遺伝カウンセラーとして働く中で何度か気になった時もありました。

 

NICUで染色体疾患と診断された赤ちゃん。ご両親は「自分たちには育てられない」と引き取りを拒否。乳児院へ行くことになったその子はその後どのような生活を送るのだろうか?

 

・医療的ケアが必要な難病のお子さん。ご両親が「人工呼吸器の管理のせいで家族の生活が回らない」と外来で訴えておられ、その子は一時的に施設に預かってもらうことに。その子と家族はその後一緒に生活できるようになったのだろうか?

 

そんな疑問を振り返るきっかけになった資料でした。

 

また、この資料は「障害のある子と社会のあり方」を考える材料となると思います。
資料の末尾にあるように、この資料をもとに障害のある子の教育や福祉がより良いものに変わっていくでしょう。


多様な人が生きやすい社会を作る。

これは遺伝カウンセラーの最大の目標です。

 

引き続き情報を集めていきます。

今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵(いれさき)

どうする遺伝性卵巣がん診療

今日、勤務先の婦人科Drから電話で相談を受けました。


4月から遺伝性乳がん卵巣がんの診療が保険収載されることに伴い、婦人科での診療の流れをどう組み立てるか?ということでした。

 

私はすぐに意見をまとめられませんでした。
なぜなら、乳腺外科での「これまでの遺伝性乳がん診療の流れをどう変えるか?」という問題を考えるだけで最近は精一杯だったからです。

 

私が勤務する病院の婦人科では、遺伝性卵巣がんを念頭においた診療は行われていません。
PARP阻害剤が使えるかを判定するためにBRCA1/2遺伝子検査を実施することはあります。
しかし、あくまで治療の一環としてであり、「遺伝性卵巣がん」を診断するためのBRCA遺伝子検査は行ったことがありません。
そのため、勤務先の婦人科で遺伝性卵巣がんの診療を行うには、診療の流れを一から組み立てる必要があります。

 

これが乳腺外科と大きく異なる点です。
乳腺外科では「今までの流れをどう変えるか?」で済みますが、婦人科ではゼロから考えなければなりません。

 

乳腺外科のフローを当てはめれば済みそうに思えますが、実際はそう簡単ではないのです。
乳がん卵巣がんの診断の流れが違ったり、医療スタッフの遺伝に関する知識量が違ったりするためです。

婦人科Drにとっても、遺伝カウンセラーの私にとっても正直難しい課題です。

 

今の時点でぱっと思いつく、検討すべきポイントを記してみます。

 

【BRCA遺伝子検査の対象について】
卵巣がん患者さんのうち、どのような特徴があれば「遺伝性を疑う卵巣癌」とレセプト審査で認められるのか?

 

がんの家族歴の情報は必要なのか、それとも発症年齢もしくは組織型だけでもよいのでしょうか。
それによって、誰にどのくらい詳しく家族歴を確認するのかが変わってきます。

 

 

【新しい診療を始めるにあたって】
遺伝性が疑われる場合、患者さんにいつ、どのようにお話しするのがよいか?

 

乳がん患者さんの中では「遺伝」に関心がある方が増えている印象がありますが、
卵巣がん患者さんにとってはどうでしょうか。
医療者っても患者さんにとっても経験が少ない領域ですので、手探りで進めていく必要があります。
忙しい外来の数分の説明だけで十分でしょうか?コメディカルはどのような助けができるでしょう。
医師だけでなくコメディカルも持っておきたい知識は何でしょう。

 

ついでに子宮内膜がん患者さんに対するLynch症候群スクリーニングの流れも作れないでしょうか?・・・と、
次つぎ検討課題が出てきます。

 

うーん、大変だ・・・(^^;)

 

初めから完璧な対応は難しいかもしれませんが、
婦人科Dr,看護師の皆さんと試行錯誤しながら新しい診療を進めていけたらと思います。


今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵(いれさき)