理学部生、遺伝カウンセラーになる

"遺伝"と触れ合いながら生きていく、試行錯誤の記録。twitter @sakie_irayで最新情報を発信中。

理学部生が遺伝カウンセラーの大学院に合格するまで

先日、理学部生で遺伝カウンセラーを目指している方からコメントいただきました。

ありがとうございます。励みになります。

 

私と同じような状況の方の参考になればと、

私が学部生の時に、どういうスケジュールで遺伝カウンセラー養成大学院の受験までを過ごしたかを紹介します。

 

私が遺伝カウンセラー養成大学院に入学したのは5年以上前ですが、

当時の日記を紐解いて綴ってみたいと思います。

 

 

遺伝カウンセラー養成大学院の受験までの日々

<学部2年生>

【春】

生命倫理の講義で「遺伝カウンセリング」「遺伝カウンセラー」の存在を知る。

遺伝カウンセラーの仕事に興味を持ち始める。

 

【秋】

都内のがん専門病院で、遺伝カウンセリングを見学させていただく機会を得る。

認定遺伝カウンセラー、臨床遺伝専門医に初めて会う。

大学院で遺伝カウンセラーの勉強をすることを考え始める。

 

【2月】

・遺伝カウンセラー大学院の過去問を入手する。

 

同時に、理学の研究者を目指す場合に進学したい大学院の過去問も入手する。

 

・遺伝カウンセラー養成課程の過去問を見て、「どう勉強したら良いかが検討もつかない問題」(のちに「疫学」「医療統計学」と呼ぶと知る)ばかりという現実に打ちひしがれる。

院試過去問は解かれることなく約1年寝かされる。

 

<学部3年生>

【春〜秋】

サークル活動やアルバイトに熱中する。

周りの友人達が「就活どうする?」という話をし始め、

自分は就活するのか、大学院に進学するのか、

進学するにしても理学系のままでいくのか、遺伝カウンセラーを目指すのか、深く悩み始める。

 

【12月】

卒業研究を行う研究室の希望を出す。

遺伝カウンセラーの勉強にも役立ちそうな発生学の研究室を志望する。

 

【2月】

・希望の研究室の教授へ改めて挨拶。

修士は他の大学院へ進学するつもりであると伝える。

 

・いくつか就活セミナーに参加するも、どうもしっくり来ず。自分は就活しないことを決める。

 

・新卒で遺伝カウンセラー養成大学院へ進学した方と連絡をとることができ、話を聞いて「遺伝カウンセラーを目指そう」と気持ちが強くなる。

 

【3月】

・約1年眠らせていた遺伝カウンセラー養成課程の院試過去問を取り出す。

医学部に行った高校の友人にお願いして、

「この問題を解けるようになるには何という教科の参考書を見たらよいか」を教えてもらう。

そして、疫学、臨床統計学、生理学、医療倫理学のテキストを買う。

 

・一方、卒業研究の研究室で、引き継ぎを受ける。

同じ研究テーマの先輩が修士2年で卒業を迎え、

他に指導してもらえる先輩もいなかったため、

時間が許す限り、先輩に繰り返し実験を見てもらって指導を受ける。

夜遅くまで1人で実験手技を復習する1ヶ月。

到底、院試対策のテキストを開く余裕はなし。

 

・休日に日本学術会議が主催していた「遺伝リテラシー初等教育にどう組み込むか?」というシンポジウムに参加してみる。

最前線の議論を見て「遺伝カウンセリングの分野っておもしろいな」とワクワクする。

 

<学部4年生>

【4月】

・研究室生活が本格始動。今までの自由な時間が無くなり、朝から晩まで実験に向き合う生活に小さな絶望感を覚える。

・そんな中でも、この基礎研究の経験がきっと遺伝カウンセラーの仕事にも役立つはずと信じて踏ん張る。

・卒業研究の指導教授には、院試の直前には勉強のための休みをいただきたいこと、この1年で出来る限りの結果が残せるよう尽力することを伝える。

 

【5月】

・遺伝カウンセラー養成大学院のオープンキャンパスに参加申し込み。

3つの大学院のオープンキャンパスに行くことに。

 

・過去問を解き始める。とりあえず解ける問題から手をつけてみる。

 

・各大学のオープンキャンパスに参加。

過去問をコピーしたり、在学生に過去問の勉強方法を聞いたり、教授に志望動機を話してコメントをいただいたり。

実際の雰囲気(人や環境)を知れて、「ここに行きたい」と志望校が固まる。

 

オープンキャンパスに複数参加すると、「あ、この前もいたね!」という人が見つかる。連絡先を交換して、励まし合う仲間を得る。

 

・卒業研究と院試勉強の両立に悩み始める。同学年で外の大学院へ進学する仲間とグループを作って、ノウハウを共有する。また、同じ研究室で昨年に外部へ進学した先輩にアドバイスをいただく。

結果、朝の6:30から実験を始め、17:30に図書館に移動して院試勉強という予定で両立を図る。

 

【6月】

・遺伝カウンセリング学会に2日間参加。「早く遺伝カウンセラーになってこの議論に参加したい!」と気持ちを熱くする。

以降、院試勉強にさらに熱が入る。あつつっ。

 

・大学の図書館の「医学系」コーナーに入ると、院試に役立ちそうな本がたくさんあることに気づく。特に「ヒトの分子遺伝学」を読むと、今勉強していることが遺伝カウンセラーの勉強につながることを実感でき、嬉しさから院試勉強にはずみがつく。

 

【7月】

・願書に必要な志望理由書を書く。両親が医療職だったので、両親に添削してもらう。学費を出していただく親にやる気をアピールする意味でも。

 

・願書は2大学に提出。どちらも遺伝カウンセラー養成大学院。受験料も交通費もかなりかかるので増やしたくない一方、あとには引けない状態なので併願することに。

 

・院試勉強中に「遺伝カウンセリング」というキーワードでネットサーフィンしていると、「泣いて笑って」という出生前診断をめぐる当事者の会のwebサイトにたどり着く。

初めて知る事実、初めて覚える感情に圧倒される。私もこのような凄まじい現場で役に立つ人材になりたいと気持ち強くする。

 

【8月】

・第2志望の大学院では、入試にプレゼンテーション課題があったため、その作成を始める。

 

・一方、卒業研究は中間報告会のためにデータの集計、画像のトリミング作業などに追われる。

 

・なんとか卒業研究の中間目標を達成し、指導教授に頑張りを認めていただいた上で、院試勉強のための休み期間(1週間)に入る。

 

・1週間前からは、図書館やカフェでひたすら過去問を繰り返し解き続ける。プレゼン課題は、発表の声を録音して繰り返し聞き、口が勝手に話せるくらいに仕上げた。

 

・試験の数日前、志望大学院は違えどプレゼン課題がある同級生で集まって、お互いの発表を見合う会を開催。質疑応答の対策になった。

 

・8月後半、2大学の院試を無事に終了。どちらの面接でも併願しているかを聞かれ、正直に答える。

・第一志望の大学院は、遺伝カウンセラー養成課程の定員3名に対し志望者11名。いろいろトラブルあるも、試験が終われば、あとは野となれ山となれ。その夜は、ずっと会いたかった高校の同級生達と楽しく飲み明かす。

 

【9月】

・まず第2志望の大学院の合格発表。合格。とりあえず遺伝カウンセラーになる切符はゲットできて一安心。

 

・数日後に第1志望の大学院の合格発表。PCの画面に自分の受験番号を見つけて、飛び上がる気持ち。ただ、研究室では周りは粛々と実験しているので、誰もいない実験棚に隠れて、静かに喜びの踊りを踊る。

 

・指導教授に大学院合格を報告。これまで暖かく見守っていただいたことへの感謝と引き続き卒業研究に精を出すことも併せて。

 

・第2志望の大学院の指導教授に、第1志望の方へ進学したい旨を伝える。その先生に「あそこのカリキュラムは素晴らしいのでしっかり頑張って」と背中を押してもらい感動する。

 

・しばらく日が過ぎ、第1志望の大学院の指導教授からメールで「入学を辞退する場合は早めに連絡を」という連絡来ていたことに、受信日から1週間後に気づく。焦って入学希望であることとご挨拶のメールを打つ。

 

・それからは「講義で使うテキストを購入しておくように」と連絡があり、その本を読み進める。カウンセリングの本を読んで、当時の「理学アタマ」には理解できない内容に少し拒否感を覚える。

 

 

【10月から卒業まで】

・遺伝カウンセラーに関する活動はほとんどせず、卒業研究に没頭。卒業研究のレポート提出が2月末と他の学部に比べて遅かったので、手が離れたときには、もう4月に向けて引っ越しやら何やらでバタバタの毎日。

 

大学院生活スタート

【4月】

・新しい場所での生活に慣れる間もなく大学院初日。これから2年間、苦楽をともにする同期

2人と初対面!ドキドキ波乱万丈の遺伝カウンセラー院生生活が始まる。

 

以上です。

 

振り返ってみて思うこと

こうして振り返ると当時の「遺伝カウンセラーになりたい!」という気持ちを鮮明に思い出します。

はやり卒業研究との院試勉強の両立が大変でしたね。

理学部って研究者になるための学部ですから、修士まで研究するは空気を吸うのと同じくらい当たり前、研究者になるなら博士まで進学するのは最低条件という雰囲気です。

そんな中、「学部でこの研究室をおさらばします」という言うのは、まるで「研究者をあきらめた落ちこぼれです」と言っているようなもの、と思ってしまうんですよね。

 

でも、決してそんなことはありません。

理学部の時に培った、研究に対する粘り強さやなぜなんだろう?と問い続ける姿勢は、遺伝カウンセラーになっても生きてきます。

 

同じ進路を目指す人が周りにいない孤独な戦いですが、ここにない未知の世界へ絶対いくんだ!という強い気持ちがあって乗り切りることができました。

もし同じように悩んでいる人がいたら、その気持ちを信頼できる人に話してくださいね。応援してくれる人が絶対にいます。私も全力で応援しています。

 

質問へのお答えコーナー

理学部生が、遺伝カウンセラー養成課程に入学する前にしておいた方がいいことは?

さて、いただいた質問の「理学部生が、遺伝カウンセラー養成課程に入学する前にしておいた方がいいことは?」ですが、

人の心に注目する機会を増やしてみる、がいいと思います。

 

理学部では、全くと言っていいほど「人の心」に関する話は出てきませんよね。まだ知られていない自然法則を見つけ出すのに、感情は必要ありませんから。

私も入学するまでに「人の心の動き」に注目して過ごしたことはほとんどありませんでした。

 

しかし、遺伝カウンセラーの大学院ではロールプレイと言って、模擬遺伝カウンセリングの演習があります。そこでは、相手の考えや感情を想像する力が求められます。

 

もちろん入学前に患者さんと話す機会はありませんので、友達でも家族でも、テレビのニュースでインタビューを受けている人でもいいです。

これまでのように、ただ受け流すのではなく、ふとした時に想像してみてください。

 

いま、目の前でこの言葉を語り、この表情をしている人は、いったいどんな感情なのか?

なぜこんな感情を抱いているのか?

 

これは自分に対して行ってみてもいいですね。それを日記に書けば、感情を言葉にする訓練にもなります。言葉にするには、まず認識する必要があり、それが相手の気持ちを想像する力に結びついていくと思いますので。

 

え、そんな小さいこと?と思われるかもしれませんが、

きっと当時の私には新しい試みだったし、難しい課題だったと思います。「正解は誰にも分からない問いを考える」ということ自体が私にとっては苦痛だったからです。

 

あとは、患者さんの体験記を読むのもとても良いと思います。

大学院の講義で「この時の患者さんの考え、感情を想像してみる」というワークがありますので、きっと役に立つでしょう。

実際、大学院に入学すると、課題に追われてテキスト以外の本を読む時間がとれないので、もし入学前に時間がとれるならオススメです。

 

といっても「病気」と縁遠い生活をしてきた理学部生にとっては、未知の世界で、とっつきにくいですよね。

本でも、マンガでも、映画でも良いです。Amazonで検索したり、本屋のエッセイ棚に行ったりして、好きなジャンルのものを手にとってみてください。

そして、「そうなんだ!」「これって何でなんだろう?」と思う箇所があればぜひマークしてください。

その「はじめての感情」は、患者さんの気持ちを想像するのにとても大切なのに、病院で仕事をしていくうちに見えなくなっていきます。

この頃のあなたにしかできない貴重な体験ですので、ぜひ試してみてくださいね。

 

何はなくても「コウノドリ」は漫画でもドラマでも見れて、内容も素晴らしいのでおすすめです。遺伝カウンセラーも登場しますよ。

 

以上です。

今日も読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵 (いれさき)