理学部生、遺伝カウンセラーになる

"遺伝"と触れ合いながら生きていく、試行錯誤の記録。twitter @sakie_irayで最新情報を発信中。

遺伝カウンセラーが勇気をもらえる動画 その3

さらに前回に続いて、第3弾の投稿です。

 

今回は、NSGC(アメリカ遺伝カウンセラー協会)40周年の記念講演の動画のうち、「遺伝カウンセリングの専門性の40年:現在について」という題の動画を紹介します。

 

www.youtube.com

 

演者はJennifer Hoskovecさんという方で、テキサス大学の出生前カウンセリングの部門長をされていたり、NSGCの理事をされていた方だそうです。

 

今回もまた「こういうこと言って欲しかったんですぅ・・・!泣」となるような、

背中を教えてもらえるメッセージでした。

 

それでは私のつたない訳で紹介します。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

みなさん、こんにちは!

 

私にとってこの機会は少しハードルが高い気もしますが、とてもわくわくしています。

この午後の時間が、同じく登壇する、リーダーであり友人でもある2人とともに、素晴らしいものとなると確信しています。

 

◆◆◆

 

これまで遺伝カウンセラーとして過ごしてきた中で、

私は常に、遺伝カウンセラーの未来に向けて自分は何を目指すのか、自分は何に希望をもっているのかということを考えさせれてきました。

 

私は、こういうことについて遺伝カウンセラー全員がクリエイティブに、でも一方で批判的な目線も持ちながら考えるべきだと思うのです。

たとえそれが戦略的な計画を話し合う時であろうと、普段の何気ない会話の中であろうと、いつもです。

 

これまで私が色んな人と話し合ってきたことを振り替えると、

私が常に思っていることはシンプルにこれなんだと思います。

 

「遺伝カウンセラー」という言葉が普段の会話で出てくるようになったらいいな、です。

 

ウェンディ(前回の動画の演者)がすでに言ってたことですが、一般の人たちに「遺伝カウンセラー」という言葉を知ってもらって、「遺伝カウンセラー」が自分の友人や家族にどう関わるかということがすぐ分かるようになってほしいのです。

 

ここで少し、私の友人であるメアリー・アンの話を紹介します。

 

メアリー・アンと私が初めて会ったのは10年以上前で、私が担当した患者さんでした。メアリー・アンの妊娠を2回担当して何年も経ったある日、近所の学校で偶然会いました。

それからずっとご近所さんとして親しくさせていただいているのですが、

彼女は今でも私をいろいろな人に紹介してくれるのです。

 

「この方はジェンさん。遺伝カウンセラーで、私のお友達なんです」と。



初めて彼女がこうやって紹介してくれた時のことが思い出されます。

メアリー・アンは、自分が私と出会えた縁を大事にしてくれていて、他の人にも同じように縁を繋いでくれているのです。

 

メアリー・アンは、いろんな人に「遺伝カウンセラーはこういう人で、こういうことをしてくれる人なんですよ」とシンプルに紹介してくれて、私のことをたくさんの人たちに知ってもらえました。

 

もちろん、こういうことをしてもらえるから関係が続いてるわけではなくて、彼女とは他にもいろんな思い出がありますが、彼女はまさに遺伝カウンセラーを日々支えてくれている人と言えるでしょう。

とてもありがたいことです。

 

私はサッカーを観戦している時でも、車で誰かと話している時でも、買い物している時でも、普段の生活の中で「私が何をしているか」という話を何気なくしています。以前よりも遺伝カウンセラーのことを知っていたり、遺伝カウンセラーと会ったことがあるという人が増えていると実感しますね。

 

◆◆◆

 

遺伝カウンセラーという職業は、急成長している職業トップ10に入ったり、STEM (科学技術の分野)キャリアのトップ5に入り続けています。

驚くべきこととは言いませんが、この上なく誇りに思います。

 

私は次の目標として、ハロウィンの日にドアベルが鳴って扉を開けたら、遺伝カウンセラーの仮装をした子どもがいる、という日が来るようにしたいと思います。

 

(会場:笑)

 

その時には私はゾンビの遺伝カウンセラーになりますよ。

具体的な計画があるわけではないですが、私のTo Doリストには入っています。

 

◆◆◆

 

NSGCはこれまで、私1人では到底なしえないような素晴らしい変化を起こし続けてきました。

私が言えることは、遺伝カウンセラーの数は増え続けているということです。

 

ここでHardy-Weinbergの法則とか難しい話をするつもりはありません。

ただ数字でもって遺伝カウンセラーの専門性やNSGCについて現状を紹介したいと思います。

 

5,171人。私は全員のことを知っているわけではありませんが、9月に遺伝カウンセリング制度委員会から「認定遺伝カウンセラーの数が5000人を超えた」というメールが届いた時は、これ以上ないほど誇りに思いました。

皆さんも同じ思いでいてくださっていると嬉しいです。

このことは、全ての学生やメンター、スーパーバイザー、試験問題をつくってくださる先生、雇用先、もう言い切れませんが、間違いなく多くの人たちにとって喜ばしいことでしょう。

これから遺伝カウンセラーとしての道のりを共に歩んでいく5000人もの仲間たちに、心から応援の言葉を送りたいと思います。

 

(会場:拍手)

 

◆◆◆

 

この人数から分かるように、今日の遺伝カウンセラーの現場での役割や責任は大きなものとなっています。

遺伝カウンセラーは、健康分野全体に渡って新しい機会を生み出しました。

もう遺伝学は、循環器系から眼科系まで、あらゆる専門分野において必須のサブスペシャリティとなっています。

遺伝カウンセラーは、それまで遺伝カウンセラーが貢献できるとは思われていなかった分野にも活躍の場を広げてきたのです。

 

遺伝カウンセラーにアクセスできるビジネスはどんどん増えていますし、遺伝カウンセラーの62%がこれまでの遺伝カウンセリングスタイルに替わるサービスを使っていて、患者さんとの新しい対話方法を提案しています。

 

また、遺伝カウンセラーの14%は、英語以外の言語で遺伝カウンセリングを行っているそうです。

 

◆◆◆

 

一方で、重要な課題もあります。次の話に移りましょう。

 

国内の遺伝カウンセラー養成課程は45コースあり、遺伝カウンセラーの国際資格を養成するコースは40ヶ所あります。もちろんそれはすごいことです。

 

数が増えていることを嬉しく思うと同時に、遺伝カウンセラーの需要に応えていくために、より一層、リクルートに注力したり養成課程の数を増やしたりする必要があります。

 

クラスの定員数も増え、カリキュラム内容も進化し、現場での遺伝カウンセラーの需要も間違いなくどんどん増えています。

養成課程の責任者や教師たちの間では「学生が将来膨大な遺伝情報に触れて

仕事をしていくのに必要な、質も量も充分な実習を提供するのは難しくなってきている」という声があります。

 

◆◆◆

 

今日、遺伝カウンセリングを学ぶ学生は、ボタンを押すだけでジャーナル記事を入手することができます。

指先ひとつで、いくらでも症例の準備に生かせるような情報を得ることができ、認定試験の結果もワンクリックで見ることができます。うらやましい限りです。

 

でも1つ、変わっていないことがあります。

 

私たちが受けた遺伝カウンセラーのトレーニングは私たち独特なもので、

どのようにでも活かせることができますし、他の医療職とは明確に異なります。

 

確かに私たちは遺伝学の専門家ですが、それだけではなく、

コミュニケーション技術とカウンセリング技術を用いながら遺伝形式やリスク評価の説明をします。

これこそがまさに遺伝カウンセラーを定義づけるものであり、私たちだけの専門性なのです。

(会場:拍手)

 

◆◆◆

 

遺伝カウンセラーの70%は、NSGCの年齢よりも若い人たちです。

(会場:笑)

 

少し想像してみてください。

4,000人を超えるメンバーたちが新たな事業を進め、その内の75%が何かのSIG(興味のあるテーマごとに集まる小さなグループ)に入っていて、25%はボランティアとして何かしらの活動をしています。

NSGCはこれからも、遺伝カウンセラー同士で、専門性を高めたり、草の根的な活動をしたり、友情をつないだりするのためのコラボレーションを生む場であり続けます。

 

◆◆◆

 

NSGCには、役職名があるわけではないもののリーダーシップを発揮している人が最大100人います。

そのうち25%は、ACOG(アメリカ産科婦人科学会)や ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)、 ACMG(アメリカ臨床遺伝学会)などの他の学会との窓口となって活躍しています。

2019年の今日、そのような学会で遺伝カウンセラーが私たちの職種を代表してテーブルにつくことは珍しくなくなりましたが、最初に遺伝カウンセラーも議論に入れてほしいと声をあげ、しっかりと功績を残した先人たちの忍耐力と実行力には頭が上がりません。

 

◆◆◆

 

NSGCはその軽いフットワークと先見性により、想定できなかったような変化の激しい世界を進む遺伝カウンセラーのニーズに応えてきました。

 

29の州で遺伝カウンセラーを公的な資格とする条例が制定されました。

遺伝カウンセラーの50%以上が自分たちが提供した遺伝カウンセリングに対してコストを請求し、最近は連邦法で公的医療保険(Medicare)の対象として認められるようになりました。

 

NSGCはこれからも、私たちが力を注ぐ専門性を支え続けてくれます。

 

◆◆◆

 

NSGCの今後の戦略について話しましょう。

今掲げられているテーマは、多様性とインクルージョン(包含)です。これまでの成果と反省点を踏まえて実現していきます。

 

NSGC理事会は2019年から2021年にかけての計画として、おそらくこれまでで最も重要な課題と思われる、内部向けの戦略的イニシアチブの1つを発表しました。

多様性とインクルージョンの文化の促進です。

これはこれからの社会に遺伝カウンセラーが関わり続けるため、成長し続けるためになくてはならないことでしょう。

改めて私はNSGCのメンバーであることを誇りに思います。

(会場:拍手)

 

◆◆◆

 

NSGCの40周年を記念して、40で終わりましょう。

あなたが遺伝カウンセラーとして大切にしていることを、ぜひ時間をかけて他の人たちと共有してください。みなさんは私たちの職業について誇りに思っていますか?

 

また、自分は将来こういうことができるようにないたいとか、今後の40年間で遺伝カウンセラーやNSGCがこうなっていたらいいなという希望を他の人と共有してほしいのです。

ぜひこの学会期間中に少しの時間をとって話し合っていただけたらと思います。

 

今この時、周りを見渡して、周囲で起こっていること、今いる環境で受けられるもの全てを活しきってください。

 

ありがとうございました。

 

〜〜〜〜〜〜

 

みなさんはどう思われたでしょうか?

 

私は、

 

確かに私たちは遺伝学の専門家ですが、それだけではなく、

コミュニケーション技術とカウンセリング技術を用いながら遺伝形式やリスク評価の説明をします。

これこそがまさに遺伝カウンセラーを定義づけるものであり、私たちだけの専門性なのです。

 

のメッセージが最も胸に響きました。

 

正直、遺伝カウンセラー養成課程の学生の頃は、

「遺伝カウンセラーって遺伝医学の知識も中途半端、心理支援も中途半端。結局、医師と心理士の両方で遺伝カウンセリングすれば足りるんじゃないの?」って思ってました。

遺伝カウンセリング部門がある大きな病院では、

臨床遺伝専門医がいて、遺伝的な問題を抱える患者さんもサポートしてこられた心理士さんがいて、

遺伝カウンセラーしかできないことってない!!いい感じで知識がある便利屋さんじゃないか(泣)

と思う時もしょっちゅう。

 

でもこうやって、これこそがオリジナリティなのだと胸をはって話している姿を見ると、

「もっともっとコミュニケーションの知識も技能も勉強したい。磨きたい!」と思います。

 

日本の遺伝関連の学会が開催している遺伝カウンセリングの研修では、

カウンセリング技術、意思決定支援の技術を学んだり練習する場所はほとんどありません。

 

自分でも参考になるリソースを探して行こうと思いますが、

現場に出てからも遺伝カウンセラーによるスーパーバイズを受けられる機会があればいいなと思います。

 

前回から同じような感想で恥ずかしいですが、

そんなことを思った今回でした。

 

さて、残す1本!次回は「遺伝カウンセラーのこれから」についての動画を紹介します。

 

読んでいただきありがとうございました。

 

井令 咲絵(いれさき)